認定外施設での新型出生前診断(非侵襲性出生前遺伝学的検査:NIPT)実施件数が増えていると、朝のニュースで見ました(お盆の話です)。
認定とは、遺伝カウンセリングや検査後の適切な診療体制が整っている医療機関に対して日本医学会が行うもの。妊婦が、検査やそれに関連することを正しく理解して自分の意思で検査を受け、検査を受けることによって不利益を被ることがないようにする」ため、認定施設で検査を受けることが推奨されているのです。
ところが朝のニュースによると、認定施設では一定の検査要件をクリアした妊婦さんしか検査が受けられず、また、認定施設の数が限られており、さらに平日昼間に何度も受診する負担が大きいそう。そして認定施設で検査を受けられない妊婦さんは利便性の高い認定外施設に流れていきます。
朝のニュースでは、NIPTを実施する認定外施設の院長先生が実施の意義をお話されていました。
そんなニュースを見るうちに記憶の蓋がパッカーンと開いたので、今回は私が実際に認定施設である大阪大学医学部附属病院(阪大病院)にて遺伝カウンセリングを受けたときの体験談を書いてみようと思います。
新型出生前診断(NIPT)とは
NIPTは「母体血を用いた新しい出生前遺伝学的検査」「母体血胎児染色体検査」「非侵襲性出生前遺伝学的検査」など、様々な名前で呼ばれています。
検査では妊娠9~10週以降の妊婦さんの血液を採取し、血液中に存在するDNA断片(cfDNA)を分析することで、胎児に染色体異常(21トリソミー症候群=ダウン症、18トリソミー症候群、13トリソミー症候群)がある可能性を調べます。病気の重さや症状までは分かりません。
NIPTを含めた出生前診断については、出生前検査認証制度等運営委員会のウェブサイトが分かりやすいです。
NIPTの検査対象となる妊婦さんは?
認定施設の場合はいくつかの条件が設定されています。
- 本人の検査希望
- 年齢(分娩予定日に35歳以上)
- 染色体疾患の可能性に基づく条件
条件は各施設のウェブサイトなどでご確認くださいね。
私がNIPTを受けようと考えた理由
私がNIPTを受けようと考えた理由は大きく以下の3つです。
- 妊娠判明時35歳の高年齢出産
- わが子の障害を受容する自信がない
- 実家が遠方かつ夫が激務という環境要因
妊娠判明時35歳の高年齢出産
NIPTが必要だと思った理由の一つが高年齢出産です。妊娠判明時、私は35歳、夫は40歳。先天性疾患のリスクは両親の年齢が上がるごとに増すというので、とても心配でした。
出生前検査を検討した背景にパーフェクトベビー願望がなかったかと問われると、ゼロではないとは思います。検査で陽性と判定されたときに子どもを諦める選択をする可能性も、この時点では頭の中にありました。
障害を持った子どもを産み育てるにはクリアすべき課題がいくつもあります。
そしてクリアできなければ、生まれてきた子どもの人生に困難を背負わせることに繋がると思っていました。
わが子の障害を受容する自信がない
障害のある子を産み育てることに伴う最大の課題が「わが子の障害の受容」ではないでしょうか。
正直私は、わが子の障害を受容する自信がまったくありませんでした。
親としてわが子の障害を受容できるか
ドライな言い方をすると、障害とは心身の機能に不具合のある状態が固定していることであり、障害がなければ当たり前にできることがサポートなしではできない、あるいはサポートがあってもできない、そんな場面に人生の中で何度も直面することになるでしょう。
障害は機能面の問題であり個人的な問題であるのに、他者と比べた優劣という価値判断を持ち込んでわが子を責めてしまわないか、ひいてはわが子の存在を否定してしまわないか?
人生の中で「できない」に何度も直面するわが子のありのままの現状を常に承認し、人生の意味と自己肯定感を持てるように育ててやれるのか?
そんな想いが頭の中にありました。
私の中には(絶対ではないれけど)親に受容されないだけで子どもの人生はハードモードになり得るという信念があります。
私自身は障害を持たずに生まれたけれど、親にとって「子どものありのままを認める」ことがいかに難しいか、子どもの立場でイヤになるほど体験してきたので。
わが子が自身の障害の受容に直面したとき、親として受容できるか
子どもが自身の障害の受容に直面したとき、気持ちの矛先は必ず親に向かいます。それを丸ごと受け止めてやれるのかどうかも、大きな課題だと私は考えました。
背景には、私自身が生育環境に起因する病に苦しんだことがあります。酷いときは年単位で休学/休職したし、生産性のない自分を呪い、生み育てた親を恨みました。今となっては言葉にできないくらいに荒んでいたことは言うまでもありません。
気持ちの矛先は親に向きます。私は親に向けたけど受け止めてはもらえませんでした。私の子どもは私に向けてくるでしょう。私には受け止める自信がありません。
実家が遠方かつ夫が激務という環境要因
育児環境が障害のある子を産み育てることに伴う課題になることは言うまでもありません。
わが家は夫が転勤族なうえに激務なので、出産後はワンオペ育児になることが確定していました。お互い実家は遠方で、ついでに言うなら住居はエレベータのない古い社宅です。
このような環境は核家族の多い最近は普通ですが、子育てをする環境としては明らかに劣悪ですし、障害を持った子どもが生まれたら、環境を変えずに子育てすることはまず不可能です。
住居は住み替えが必要でしょうし、定期通院や長期入院などが必要なら付き添いも必要になります。その人員をどう確保したらよいのでしょう。
病気や障害のせいで保育所に預けられければ代替となる施設が必要ですが、施設が近隣になければ仕事はどうするのか?祖父母の手を借りる前提で転居するのか?その場合に夫の仕事はどうするのか?単身赴任?子育て要員が足りないのに?などなど。
この時期、子どもを持つことの深刻さを重く重く考えていたし、そして私たち夫婦がそれを許容できるのかどうかを知りたいという想いは強かったです。
だからNIPTを受けようと思いましたし、そのために必要なケアとして遺伝カウンセリングを受けました。
大阪大学医学部附属病院にて遺伝カウンセリングを受けた体験談
まずは時系列を紹介します。
- 妊娠判明直後:産院に相談
- 妊娠8週:阪大病院に問い合わせ
- 妊娠9週:遺伝カウンセリング
→数日後、NIPTを受けないことを決める - 妊娠12週:精密超音波検査(初期)
- 妊娠18週:精密超音波検査(中期)
妊娠判明直後に産院に相談
妊娠が判明し、母子手帳をもらう直前にNIPTについて産院に相談しました。
相談したとき、主治医はなんだか不機嫌そうに近隣の認定施設をいくつか教えてくれました。
これは私の想像ですが、主治医は出生前診断についてかなりストイックな考えを持っている人だと思います。なんせ生まれるまで性別すら教えない主義でしたから、相談した相手が悪かったとしか言えません。
大阪大学医学部附属病院に問い合わせ(妊娠8週)
認定施設である大阪大学医学部付属病院(以下、阪大病院)に問い合わせたところ、迷っている時間はほとんどないことが分かりました。
- NIPT希望者が多いため妊娠初期(妊娠8~10週)限定
- 希望者に対して枠がかなり少ない
- 検査前に遺伝カウンセリングが必要
- かかりつけの産科の紹介状が必要
(※その後、紹介状は必須ではないが予約が産科からのFAXになった)
NIPTは妊娠22週まで受診可能だと思っていた私は、この時点で意外と時間がないことに気づきました。問い合わせが妊娠8週後半、期限が10週だったので焦った焦った
産院の主治医に紹介状をお願いすると、産科の主治医やはり不機嫌な様子でした。
本当に、頼んだ相手が悪いとしか。一応言いようがありません。
フォローしておくと、私自身はこの先生の頑なさは嫌いではないです。真摯な人なんだと思う。
ちなみに!
阪大病院を選んだ最大の理由は近さです。
出生前診断だけでも何度も受診するし、もし先天性の異常があれば産院から大きな病院へ転院することもあり得るので、近いに越したことはありません。
遺伝カウンセリングを受ける(妊娠9週)
妊娠9週目の終わり、夫と2人で遺伝カウンセリングを受けました。
大学病院なので初診受付は平日午前のみ。知ってたけど初診の行列は長いです。
産婦人科の診察までしばらく待ち時間がありました。知ってたけど待ち時間長いです。
妊娠経過とNIPTの希望を確認する問診の後、遺伝子診療部に行くように言われました。
遺伝子診療部の前でもしばらく待ちます。予約があるのにそこそこ待ちます。知らなかったけど待ち時間長いです。
遺伝カウンセリングは1時間程度でした。
そもそも遺伝とは何か?という話から始まり、障害、遺伝性疾患、染色体異常による先天性疾患の予後、出生前診断の種類や特徴、検査で分かることや分からないことなど、分かりやすいスライドを用いて本当に丁寧に教えてくれましたし、素朴な疑問にも徹底的に付き合ってくださいました。
カウンセラーはあくまでも中立の立場で、NIPTを含め出生前診断を受けるも受けないも私たち夫婦の自由意志に任されている印象が強かったです。どうした方がいいというアドバイスはありません。考える材料を提供し、意思決定をしやすくするということなんだろうなと思いました。
遺伝カウンセリングの後、産婦人科に戻って次回の予約を取りました。
この時点ではNIPTを受けるかどうか迷っていました。
ある程度予習をしたはずなのに遺伝カウンセリングを受けてようやく理解できたことが多すぎました。また、検査の結果によって自分たちがお腹の赤ちゃんの命の選択をすることになるかもしれないという状況を、改めて突きつけられたことが大きかったのです。
数日後、NIPTを受けないことに決める
結果的に、それから数日で私たち夫婦はNIPTを受けないことに決めました。
私たち夫婦は遺伝カウンセリングで以下の3点をあらためて確認しました。そして、自分たちにとって必要な検査はNIPTではないと結論しました。
- NIPTは3種類の染色体異常を検出する
- NIPTで分かるのは3種類の染色体異常の有無である
- 出生前診断で異常が検出されない=障害がない、ではない
結論に至った理由を少しだけ詳しく書きますね。
NIPTは3種類の染色体異常を検出する
遺伝カウンセリングを受ける前、私たち夫婦はNIPTを受ければ生まれてくる赤ちゃんに障害があるかどうかがほぼ分かると誤解していました。
既に書いたとおり、NIPTは3種類の染色体異常を検出する検査です。これら3種類の染色体異常が赤ちゃんの全染色体異常に占める割合は2/3程度、さらに、先天性疾患の中で染色体異常によるものは25%程度という事実があります。
単純に計算すると、すべての先天性疾患のうち25%×2/3=17%しか分からないことになります。素直に、残りの83%は???と思いました。
NIPTで分かることは3種の染色体異常の有無である
NIPTは3種類の染色体異常の有無を検出する検査であり、病気の重さや症状までは分かりません。
遺伝カウンセリングで、NIPTで検出できる先天性疾患を持って生まれた赤ちゃんの予後の話を聞きました。特に21トリソミー症候群(ダウン症候群)は本当に個人差が大きく、50~60代まで幸せを感じながら生活する人も多いそうです。
その話を聞いて、自分たちが染色体異常の有無だけに囚われ、程度の濃淡を見落としていたことを自覚しました。
出生前診断で異常が検出されない=障害がない、ではない
遺伝カウンセリングを受け、「出生前診断(NIPT以外を含む)で異常が検出されない=障害がない」ではないことをはっきり認識できました。
遺伝カウンセリングの話の中心は先天性疾患ですが、出生前診断では検出できず、ある程度年齢を重ねてようやく判明する機能面の障害もありますし、出産時や出生後の偶発的な事象により障害を持つ可能性もゼロではありません。
私たちは遺伝カウンセリングによりNIPTの結果が陰性でも実際は産んで育ててみるまで分からないと考え、検査の結果に関わらず産もうと決意しました。そして検査結果に関わらず産むならば、NIPTはベストな選択ではないと思いました。そしてNIPTを受けないことを決めました。
精密超音波検査を受ける(妊娠12週&妊娠18週)
出生前診断の方法のひとつとして超音波マーカー検査があります。
これはとても精密な超音波検査(エコー検査)により先天性疾患の兆候を画像的に検出するものです。
画像による検査であれば、少なくとも形態異常についてはNIPTで検出できる3つの染色体異常によるものに加え、その他の原因によるものも検出されるため、1回の検査でカバーする範囲はNIPTより広いと考えました。ただしNIPTで検出できる染色体異常があっても超音波検査で判別できる形態異常を伴わない場合は当然見落としますし、感度や的中率はNIPTよりも低いです。
私は妊娠12週で初期の超音波マーカー検査を、妊娠18週で中期の精密超音波検査を受けました。
超音波検査で形態異常が検出されなかったので、それ以上の検査はしませんでした。
羊水検査などの侵襲的検査には低確率ながらも胎児にリスクがあります。超音波検査で異常が検出されず、結果に関わらず産むと決めた以上、お腹の子にリスクを負わせたくないと思ったので。
検査を実施した阪大病院の産婦人科の先生は「現時点で超音波検査で分かる異常がないというだけのことで、それ以上のことは超音波検査では分かりません」と検査の限界を強調しておられましたけどね。
一連のカウンセリングや検査を経て、私たちはようやく腰を据えて出産に向かうことができるようになりました。
遺伝カウンセリングを受けて良かったこと
以下3つの理由から、私自身は遺伝カウンセリングを受けてよかったと思っています。
- 先天性疾患や障害についての誤解を正すことができた
- 各検査法のカバー範囲や限界を知ることができた
- 出生前診断の後の意思決定のプロセスで考えるべきことが明らかになった
出生前診断の情報を得ることは容易になりましたが、情報を正確に、我がこととして捉え、意思決定するプロセスは困難なままです。
少なくとも私は、遺伝カウンセリングを受けるまでいろいろ誤解していたし、意思決定のプロセスで何を考えるべきか、よく分かっていませんでした。
出生前診断を受けるかどうか?検査の結果を受けてどうするか?
じっくり考える時間もありませんし、判断が重大なので考えること自体がかなりストレスになったとも思います。
そんな状況の中で考える材料を提示し、中立の姿勢で向き合ってくれる専門家の存在は本当にありがたかったし、おかげで納得してお産に向かうことができました。
出生前診断については断片的でやや偏った情報を目にすることが多いです。正確で中立的な情報が一般の産科でも積極的に提供されればよいのに、そう強く思っています。
私の書いたこの記事も断片的で偏った情報のひとつに過ぎません。超音波検査で形態異常が検出されず、生まれてきた子どもに3歳の時点で個性の範囲を超える異常が認められていない、そんな一人の母親の体験談でしかありません
別の記事で、遺伝カウンセリングを受けた時期に読んだ書籍(マンガを含む)や、出生前診断を理解するために参考になるウェブサイトなどをまとめてみました。個人的な体験談ではなく、もう少し中立的な情報が読みたいという方は参考にしてくださいね。