2歳9ヶ月にもなると、子どもとは本当に子どもらしく、そして難しくなってくるなぁと日々感じているTsumuRiです、こんにちは。
最近では、いろんな意味で全力で向かってくる目の前のわが子に、全力で振り回されている感じです。愛情表現もイタズラも全力ですよね、この年頃……。
そんな日々の中、3歳からの子育てに向けてのヒントにしたいと思い、佐々木正美先生の「子どもへのまなざし」三部作を読みました。
「子どもへのまなざし」ってこんな本
子育てについての児童精神科医の講演録
佐々木正美先生と言えば、子育てに関する著書や翻訳が数多くある児童精神科医の先生です。
この「子どもへのまなざし」は、その中でもいちばんよく知られた著書だと思います。
この三部作は保育者に向けた講演をまとめたものです。
エリクソンの発達理論を中心として、子どもの発達に関する海外の研究データや、佐々木先生の児童精神科医としての臨床経験も交えたお話ですが、説明はとても易しく、本当に穏やかで暖かな言葉で構成されているので、じんわりと暖かい気持ちになるんですよね。
先生が子どもに向けるまなざしも、きっと穏やかで暖かなものだったのだろうなと想像が膨らみました……
親の仕事は「子どもが望むように愛する」こと
この三部作で語られる親の仕事は、子どもが望むように愛すること、これに尽きます。
子どもが親に抱く、ささやかではあるけれども切実な、祈りのような願いを親が残らず満たすことで子どもは自然とあるべき姿に育つ……私が感じたのはそんなメッセージでした。
メッセージが強い分、親になる覚悟や責任を問われている気分にもなるんですが、同時に、親役割を果たせることの喜び、誇り、かけがえのなさ、そして、親役割が終わるときの一抹の淋しさを教えてもらいました。
「子どもへのまなざし」三部作が教えてくれること
三部作となっている「子どもへのまなざし」、根底にあるメッセージは共通していますが、扱っているテーマは1冊ごとに少しずつ異なります。
簡単にですが、3冊の特色と、それぞれから学んだことをまとめてみました。
この記事の中ではところどころ「母親」と書きましたが、佐々木先生は「子どもへのまなざし」の中で、この役割を果たすのは必ずしも母親ではなくてもいいことにも触れていますので、念のため申し添えておきますね!
「基本的信頼」は人生の基盤
1冊目に出版された「子どもへのまなざし」(1998年)は、いわば佐々木先生のメッセージの核となる1冊です。
この三部作を通じて大切にされているのは「基本的信頼」と「ソーシャル・レファレンシング」の感覚。
大まかには、
- 基本的信頼
⇒周囲の人や世界に対する信頼感 - ソーシャル・レファレンシング
⇒迷ったときに周囲を見て参考にする感覚(子どもが何かしようとするときに、チラッと見てくるアレ)
基本的信頼が欠ければ人生は不信感に満ちたものになりますし、ソーシャル・レファレンシングが欠ければ社会のルールを守るのが困難になるので、いずれも社会の中で生き抜くには本当に大切な感覚です。
そして、これらを育てるためには、子どもが望むように愛することと、子どもが大人の判断を求めて振り返ったときに自分を見つめる大人のまなざしがあることが必要なんです。
子どもを信頼して待つ
「子どもへのまなざし」の中で、もうひとつ大切にされているのは、子どもに向き合うときの親の在りようです。
子どもが親の期待に応えるのを望むのではなく、子どもを信頼して待ち続ける。
それも、「いつからできるようになるか、楽しみに待っててあげるからね」くらいの、のんびりゆっくりした感じ。
これくらいの在りようなら、子どもの成長でやきもきすることもないでしょうし、子どもの成長はすべて喜びになりますよね。
とは言え、自分が親の立場になると、子どもに過剰な期待をしないことの大切さは分かっていても難しいものがあると実感しています
母親自身が豊かな人間関係を持つ
本当に親の仕事って大変で難しいという印象ですが、佐々木先生は、母親自身が豊かな人間関係を持つことが、この大変な仕事のために大切であることを述べています。
同時に、現代の親は昔に比べ孤立しがちで満たされない想いを持ちやすく、子育て下手になっていることも冷静に指摘しています。
親の満たされない想いが子どもに向かい、それが子どもを苦しめることは、最近よく言われるようになりましたね。
こんな感じで、親にとっては耳の痛い話もあるんですが、社会構造の変化で社会や地域全体が子育て家庭を支えにくくなっていることも指摘しており、親だけのせいにしていないのが私は嬉しかったです。
親の責任が重いことは事実ですが、周囲の大人が親を支えようと呼び掛けてくれていることに勇気づけられました。
まずはいちばん近くにいる夫との関係を、もっとくつろいだものにしたいなと思いました!
今、目の前にいる子どもを出発点にして考える
2冊目の「続 子どもへのまなざし」(2001年)は、1冊目を受けて「理想的な育て方ができなかった」「子どもの様子が気にかかる」と感じた親の声に応えてまとめられたものです。
このような経緯があるので、1冊目を読んでからの方が入りやすいですが、育児不安が強いタイプの人は2冊目の方が読みやすいかも。
私も含め、親はああしてやれなかったこうしてやれなかったと悩みがち。
それでも過去は過去として、今の状況を出発点に、目の前の子どもをどう育てていこうかという気持ちを持つことの大切さを改めて教えてくれますよ。
子どもの語りを「聞ききる」
2冊目には、いじめ、引きこもり、非行、摂食障害、リストカッティングなどに苦しみ、特別な手当てが必要になった子どものエピソードも出てきます。
その中で、佐々木先生が診察室にやってくる子どもたちの語りを「聞ききる」姿勢には胸を打たれました。
子どもは、とりとめのない話を十分に聞いてもらってやっと、耳の痛い言葉も聞き入れる気になれるんです。
過去の私自身がそうでしたし、当時の私がその気になるまで黙って付き合ってくれた人には、今は感謝の気持ちしかありません。
その人もこんな覚悟で向き合ってくれていたのかしらと思って、目頭が熱くなりました……
苦手を苦労にしなくていい社会
続編から10年の時を経てまとめられた3冊目、「完 子どもへのまなざし」(2011年)。
前半はこれまでの2冊のおさらい的な内容で、エリクソンの発達理論に基づいた乳幼児期から老年期までの発達課題を易しく説明しています。
後半は2005年の発達障害者支援法の制定を受け、支援が必要な子どもたちとの関わりや子育てについて説明しています。
子どもひとりひとりの苦手に応じて生活環境を整えることで、子どもが穏やかに暮らせるということが、大人になった子どもたちの語りを通じて本当によく分かりました。
最後の方にレオ・カナー(自閉症研究の基礎を作った児童精神科医)の言葉が引用されていました。
自閉症の子どもだけではなく、すべての子どもについて、治療や教育は、現状を肯定するところから始まる
苦手なことは苦手なまま生きることを肯定してくれる社会は、すべての子どもにとって、そして大人にとっても生きやすい社会に違いないんですよね。
実は、私もけっこう苦手なことが多くて苦労している大人なので、そんな社会が実現してほしいと切に願います。
私はアドリブがきかないので、先の見通しが立たないと不安で眠れなくなるタイプです……何パターンも台本書かないとほんまに落ち着かなくてツラい(苦笑)
「子育てが下手になった現代の親」のひとりとして
ここまで訳知り顔でえらそうに語ってきましたが、私自身は佐々木先生の語る理想的な育ち方とは異なり、基本的信頼を形成しそこねたことが疑われる人間です。
親になる前にある程度の手当てはしましたが、内なる感覚を頼りに子育てできるタイプではありませんし、正直「母性」や「愛情」が何なのか、よく分かっていないところさえあるんです。
でもこの本は、私がそうであることを決して否定はしません。それを踏まえて「今」を出発点として、これから目の前の子どもをどう育てるか考えようと言ってくれます。
だからこそ、この本の中で「母性」と呼ばれる受容的で適切な養育態度というものが、書物を通じた学習でも身につけられるものだと信じたいし、今は書物の真似事に過ぎなくても、子どもとの日々を積み重ねる中で、ついには本物と区別のつかないものになったとしたら、そんなに嬉しいことはないだろうと思います。
この三部作はそんな気持ちにさせてくれる本です。ぜひ読んでみてくださいね。