出会ってからもう何度読み返したか分からない「子育てコーチングの教科書」
なかなかブログで紹介することができず、今まで下書きのままだったのですが、9月の連休にまた読み返したので、その気持ちのままで紹介します。多分こういうのって悩むと書けなくなるのでね。
育児書「子育てコーチングの教科書」を読み返しました
冒頭に「もう何度読み返したか分からない」と書きましたが。
私は、娘が差し出してくれたものをちゃんと受け止められているかしら、指図ばっかりしてないかしらと迷った時、この本を再読して自分の立ち位置を確認し、軌道修正することにしています。
この本の著者は、母親兼コーチのあべまさいさん
著者のあべまさいさんは、ソーシャルワーカーからキャリアをスタートし、コミュニケーション講師を経て、現在もプロのコーチとして活動されている方です。
プライベートでは娘さん(ちはるちゃん・仮名)を育てるお母さんでもあり、シュタイナー教育にも興味を持っているそう。
この本は、ちはるちゃんがまだ小学校2年生だった2005年に「おかあさまのためのコーチング」というタイトルで刊行され、10年の時を経て「子育てコーチングの教科書」として復刊されたものです。
そもそも「コーチング」とは?
本の内容を紹介する前に、そもそもコーチングとは何ぞやという話を。
本から引用しますが、
コーチングとは、ひとことで言えば、「相手の自発的な行動を促すコミュニケーションのスキル」です。
そしてこれは特別な人が「発明」したものではなく、いわば「発見」されたものです。主に1970年代のアメリカで、優秀なスポーツ選手を育て上げている名コーチ、名監督が、選手に対してどのような声のかけ方、関わり方をしているのかを観察して、その名コーチたちに共通するやり方をまとめあげたのがコーチングスキルです。
ひとことでコーチングの特徴を表現すると「指示・命令型から質問・提案型へ」ということができるでしょう。(中略)相手が心から関心を持って取り組めるような質問をコーチが考える。そして、相手からその答えを引き出し、自分の提案も伝え、お互いに双方向のコミュニケーションを重ねることによって、相手の自発的な行動が生まれていく。
コーチングとは、元々スポーツの分野で使われていたコミュニケーションの技法が、ビジネスの分野に応用され、さらに子育ての分野にも広がったものです。
基本的なスタンスは「答えはすべて自分の中にある」(ここでいう自分とは子どものことです)、それを見つける力があることを信じて真摯に向かい合っていくことです。
「子育てコーチングの教科書」の内容
この「子育てコーチングの教科書」は、コーチングスキルの概要を俯瞰するものです。スキルを軸に構成された目次を眺めると、コーチングの全体像がふんわりと分かります。
- 序章 コーチングを知る
- 第1章 子どもを受け止めるスキル
・聞く
・見る
・ペーシング - 第2章 子どもに働きかけるスキル
・質問する
・アクノレッジする①②
・リクエストする
・相手のために求める - 第3章 視点を増やすスキル
・コミュニケーションのタイプを知る
・優位感覚を知る
・意識して視点を動かす
・宝物(リソース)を見つける - 第4章 自分の内側に力強さが生まれるスキル
・「軸」を持って関わる
・二分化について理解し、二分化から自由になる
・思い切って、一体感を味わう
・事実を伝える、そして味方でいる
・すべての感情を味わうと決める - 最後の章 子どもから学ぶ
このように、目次は体系的に構成されています。子どもとの関わりの中で用いるスキルが第1章、第2章で説明され、関わりの中でスキルを使うための心の在り様が以後の章で説明されます。
目次は体系的ではありますが、文章はあまり体系的とは言えません。
この本は、著者のあべさんの個人的な子育て体験や、コーチとしての活動における実践、さらにはクライアントのエピソードを綴ったエッセイでもあります。なんせ、あべさん本人が冒頭でこのように書いているくらいなんです。
書いたときに小学校二年生だった娘は高校三年生になり、受験の真最中です。復刊に当たって新しいタイトルがつけられることになり「子育てコーチングの教科書」に決まったことを伝えた瞬間、爆笑しておりました。「やっぱ、教科書っていうイメージから一番遠い本だよね」と言うと、ニヤニヤしながら「うん」とうなずいています。
実際、私が読んだ印象も「教科書」ではありませんでした。むしろ、脱線の多い先生の授業のよう。あべさんがコーチとしての活動を通じて出会ったコーチやクライアントのエピソードは成功例が多い一方、ご本人の子育て経験については失敗例の方が多く、本業のコーチであってもプライベートは失敗だらけであることに勇気づけられますし、同じ一人の母親として共感を覚えます。
それでも、失敗を卑下するでもなく開き直るでもなく、真摯に反省している姿には背筋の伸びる思いがしますし、私にとっては体系的な「教科書」ではないけれど、うまくいかないと感じたときに一緒に向き合ってくれる「コーチ」の役割を果たす本になりました。
コーチングのスキル以上にコーチの心の在り様を学べる本
本当に大好きで何度も何度も読み返している本ですが、読むたびに私の中に残るものは、コーチングのスキルそのものよりも、コーチというよりは母親としてのあべさんの心の在り様です。
コーチングの核となる概念やスキルについても詳細に書かれてはいるのですが、それ以上にあべさんのしなやかな心の在り様の方が私には素敵に思えましたし、根っこに相手を真剣に想う気持ちがあってこそのスキルだと感じたので。以下は特に印象的な記述です。
聞く:相手が「聞かれた」と思う聞き方
子どもの話を本当の意味で聞いているか?ということを問いかけると同時に、これまで本当の意味で自分の話を聞かれたことがあるか?と感じた一節があります。
「聞く」という行為は、「最初から最後まで聞く」、そして「相手の言わんとしていることをそのとおりに理解しようとする」、そして、「それだけで完了する」行為
「最初から最後まで聞く」には、「そのとおりに理解しようとする」には、自分のやっていることをやめて、自分の予測を脇に置いて、自分の価値判断をいったんは手放して、そのことに耳を開くことをしなければなりません。言い換えれば、自分の体と気持ちを相手の心の隣に派遣して聞くことが「聞く」という行為
話すことをただ聞いてもらうことの効能は、児童精神科医の佐々木正美先生の著作でも読んだことがあるのですが、何度も自分の話を望む形で聞いてもらえた経験をして初めて耳の痛い話も聞くことができるようになるということは私自身の経験から言っても確かにあって、聞くということは信頼関係を形成する第一歩のように思えます。
母親というものは子どもにとって初めて接触する大人であり、関わりの親密さというアドバンテージを持っているけれど、それに甘えることなく子どもとの信頼関係を維持する努力をしているか?と真正面から問われた思いがします。
見る:エンジェル・アイをあなたに そして私に
と、少しだけ自分に厳しい目を向けてしまったところで、もうひとつ大切なことを。
「エンジェル・アイ(天使の目)」という言葉があります。これはコーチや組織のリーダーがクライアントや部下の話を聞く時の一つのモデルとなるような眼差しを表す言葉です。相手を無条件で受け入れる、そう決めている人の「目」の表情です。
「見ること」に関して忘れてならないことがもう一つあります。それは自分に「エンジェル・アイ」を向けることです。
対義語は「イーグル・アイ(鷹の目・厳しく射るような批判的な目)」です。
最初の「聞く」にも関連しますが、自分の予測や価値判断でガチガチになっているときは「イーグル・アイ」を向けがちになります。そんな状態の人に話を聞いてもらえるとはちょっと思えないし、恐ろしくて背中を向けてしまいそうです。この本は全編を通して凝り固まった価値観から自由に視点を動かす方法を教えてくれます。そして、自分自身に対しても時には「エンジェル・アイ」を向けて自由になることを勧めてくれます。
この本が「エンジェル・アイ」を向けてくれるからこそ、読むたびに自分の子育てを点検すると同時に、できたこともできなかったことも「そんなこともあるさ」と受け止めて、明日娘が起きてきたら、ちょっとはマシな母親になろうと決意するのだと思います。
承認:差し出されたものをもらう
「アクノレッジメント(承認)」とは育児書でもビジネス書でもよく言われることですが、この本でも大切なものとして登場します。
幼い子どもが語りかけてくることは、一緒にここにきて、いっしょにこの世界を味わえということに尽きるような気がします。親がいっしょにそこまで行くことは、子どもにとって大きな大きなアクノレッジメントなのだと思えます。
親が子どもに何かをあげることによってその子を認める、ほめようとすることは普段よくやると思うのですが、ともすれば差し出すことばかりに意識が向きがちです。まず、子どもから差し出されたもの、子どもが言うこと、子どもが表現してくることを受け取る、ただ受け取るのではなく大切にもらう、それを意識して行うことが子どもの存在を承認することになる
子どもって案外多くのものを大人に差し出してくれているけれど、大人になると、どうもそれが見えにくいというのは実感としてあります。
「あれみて!」「これみて!」という子どもの要求は、大人の側に余裕がないと、かまってほしい気持ちの表れにしか見えないことがあるんですが、もしかすると大人には見えていないものや、忘れてしまったことを純粋な親切心からシェアしてくれているのかもしれません。
そんな視点のずらし方を手に入れてから、子どもの「みて!」を以前より楽しみにできるようになりました。
承認についてはもうひとつ大切なことが書かれているので抜粋すると、
アクノレッジメント(承認)のスキルは「結果承認(よい結果をほめる)/行為承認(望ましい行為があった時にそれを認める)/存在承認(存在そのものを認める)」の3つに分けられます。存在承認や行為承認がなくて結果承認だけのコミュニケーションは、人をかえって不安にさせるとも言われています。
本来は存在承認がいちばん大切であるにもかかわらず、子どもが大きくなるに連れて大人はそれを忘れて結果承認になりがちです。
新生児の頃は息をしているだけで喜べたのに、大きくなるにつれ、これができたあれができないと大人の都合で一喜一憂したり他の子どもと比べたりするようになる。でもね、結果承認は「よい結果」という条件つきの承認だから、これしか得られない場合は常に良い結果を出そうと努力し続ける無限地獄に陥るんです。これだけは本当に忘れないでおきたいと、自分自身の子ども時代を振り返ってしみじみ思います。
「寝ている子どもの匂いをかぐ」いつか過ぎ去っていく幸せを大切に
この本は子育て中の母親が悩む、子どもをどうやって伸ばしていくかという課題に対し、ひとつの手段としてコーチングというスキルを示す本です。
育児書では「自己肯定感」「自発性」ということがよく言われますが、コーチング的な関わりを正しく行うならば、子どもの内側にこれらを育て、子どもが本来知っていて、親も薄々は感づいている、オリジナルの答えにたどり着く手助けをするものであることに疑いの余地はありません。
でもそれ以上に、子どもが差し出してくれるかけがえのない時間を、母親が味わい、楽しむことができ、さらに子どもにとってのコーチの役割を果たしながら、母親自身も子どもと共に育つための心の在り様を教えてくれる本でもあるのです。
わたしの隣の小さなコーチに あなたの隣の小さなコーチに
これは本の扉に書かれている一節ですが、最後まで読み通した時に納得が訪れます。
そして、この後に私の見つけた「何か」を添えて私の心の中のコーチにそっと差し出したら、もしかすると大切にもらってくれるのではないかしらと想像して、暖かい気持ちになったのでした。
手元に置いておくと子育て期間を通して伴走してくれると確信して、図書館で何度も何度も借りた後にわが家にお迎えした、そんな本です。

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